2010-01-01から1年間の記事一覧

水たまりの虹

まったく唐突ではあるが、その昔、道路の水たまりに虹を見た。水たまりにうすく油が浮き、それが陽の光を浴びて虹色に輝いていた。下を向いたまま、お日さまとお話をしている気分になることもあった。 最近こんな光景を目にした記憶がない。自動車の機密性が…

消えたゼッケン

子どものころ、学級新聞やグループやチームなどに名前をつける際、ほぼ定番として登場する言葉があった。 よいこ、なかよし、あおぞら、にこにこ、…… いまはどうなのだろう。こんな名前の野球チームを見かけることはない。もっとかっこよい名前がついている…

東京タワー

建造中のスカイツリーが東京タワーを抜き、日本一の高さになったとか。 東京タワーとスカイツリーを見る意識は随分違っているように思われる。 東京タワーの建造にはかなり〝挑戦〟的なものが含まれていた。昭和日本の発展のシンボルであった。日々、その建…

苺と蜜柑の食べかた

苺。すこし深い皿にへたを取った苺を入れる。スプーンで苺を潰す。砂糖をかけ、ひたひたになるまで牛乳を浸す。潰れた苺と砂糖の溶けた牛乳をスプーンですくって食べる。苺を潰しやすいように背を平たくし、さらに滑り止めの小突起——ぶつぶつがついた専用の…

蜜柑の缶詰

かつては今よりも缶詰が普及していたように思われる。冷蔵、冷凍技術や流通の状況が今に比べれば相当に貧弱だったため、保存方法の主力であったためだろう。 普通はテコ式の缶切りでギコギコ開けるのだが、このときに中から出てくる汁/シロップをこぼさない…

デカパン

すっかり影を潜めてしまったもののひとつに「デカパン」がある。いや、デカパンそのものが消えてしまったわけではない。デカパンは確固として健在だ。消えたのは「デカパン」という呼称である。 男性パンツの二大勢力といえばブリーフとトランクス。このトラ…

ヨイトマケ

昭和の工事現場。工事現場などで土台を固めるのは人力で行っていた。丸太で高い櫓を組み定滑車をひとつぶら下げる。地面を叩くのは重たい錘。この錘をロープに結び、このロープを滑車を通して、人力で引く。いっぱい引いて錘を持ち上げ、「せえの」で手を離…

昭和の犬の名前には工夫がなかった。定番のポチに体色からシロとかクロなどおざなりの名前が多かった。 少し後になってコロという名前が一時流行した。これは、確か、「コタンの口笛」という連続ラジオ・ドラマがあって、そこに登場する犬の名前に因んでいる…

真っ暗な夜

昭和の夜は暗かった。街灯は数が限られ、しかも一つ一つの明るさは今の比ではなかった。ぼんやりした光がところどころで灯っているといった程度だった。門灯を点けている家のそう多くはなかった。 街が薄暗いので歩くひとも少なかった。それで夜は寄り寂しか…

町の音

匂いの次は音の思い出。町の音もだいぶ様子が変わってきた。今回は消えてしまった町の音の記憶。 まずは物売りの声。 金魚売りやラオ屋の売り声はよく話題になるけれど、わたしにははっきりとした記憶がない。焼き芋や竿だけ売りは肉声ではなくなったがいま…

町の匂い

昭和が終わって、町の匂いが薄れてきたように思われる。 昭和の町はいろんな匂いが溢れていた。ドブからはメタンの匂いが漂い、ゴミ箱からは生ゴミの匂いが漏れていた。トイレに入ると鼻をさす匂いがし、くみ取りの肥桶やバキュームカーもむろん強烈に匂って…

原動機付き自転車

オート三輪と同じように、かつては普通に見かけたのに近頃とんと見かけなくなったものはたくさんある。そのひとつに原動機付き自転車がある。そんなもの頻繁に走っているじゃないか、と言いなさんな。かつてのそれといまのそれとは名前が同じだけで仕組みは…

火鉢

昭和三十年の正月にはあって、平成の正月には無くなってしまったもののひとつに火鉢がある。昭和の暖房の主役は火鉢であった。のちに電気ごたつに主役の座を奪われてしまうが。 火鉢といっても粋な長火鉢ではない。まるい陶器の火鉢である。灰をいれ、熾した…