真っ暗な夜

 昭和の夜は暗かった。街灯は数が限られ、しかも一つ一つの明るさは今の比ではなかった。ぼんやりした光がところどころで灯っているといった程度だった。門灯を点けている家のそう多くはなかった。

 街が薄暗いので歩くひとも少なかった。それで夜は寄り寂しかった。野良犬の多さも夜の通りを歩くにくくした。昼間は馬鹿にしていた路地も夜になると魔力を発揮し恐ろしい場所へと豹変する。

 こんな夜でなければ、怪人二十面相は出没できなかったであろう。そんな夜を知らなければまことちゃんの怖さも半減してしまうだろう。幽霊や妖怪も真っ暗でなければ出てこない。真っ暗な夜というものは、想像力を逞しくする。恐怖を呼ぶ夜の暗闇。歓迎はしないが、なつかしさは漂う。

 いやいや、恐怖だけではない。真っ暗な夜がなければ、宮沢賢治やムットーニの幻想も生まれなかったかもしれない。夜の暗闇は、昼とは一変する異空間のパワーを持つ。白い月のパワー、水晶のパワー。冷たいエネルギー。負のエネルギーというものがあるならば、その筆頭は真っ暗な夜の持つエネルギーだろう。