町の匂い

 昭和が終わって、町の匂いが薄れてきたように思われる。

 昭和の町はいろんな匂いが溢れていた。ドブからはメタンの匂いが漂い、ゴミ箱からは生ゴミの匂いが漏れていた。トイレに入ると鼻をさす匂いがし、くみ取りの肥桶やバキュームカーもむろん強烈に匂っていた。自動車は油臭かった。

 これらは町が清潔になるとともに消えていった。良いことかも知れないが。

 不快な臭いばかりでない。家庭の食事の支度の匂いが道にはみ出すこともなくなってきた。昭和の路地は、里芋を煮っころがす匂いや、煮魚の醤油の臭いが漂っていた。その匂いで時刻を知ることもできた。

 これらの匂いも薄れてきた。住宅の密閉度が増して、臭いが外にもれなくなったのだろうか。道路に面した一階に台所を持たない家が増えたのだろうか。そもそも、そういった料理をしなくなったのだろうか。

 個人的には匂いは苦手なので、この風潮は歓迎なのだが、それでも町や生活が中性化しているようにも見え、なにやら寂しさを感じている。