苺と蜜柑の食べかた

 苺。すこし深い皿にへたを取った苺を入れる。スプーンで苺を潰す。砂糖をかけ、ひたひたになるまで牛乳を浸す。潰れた苺と砂糖の溶けた牛乳をスプーンですくって食べる。苺を潰しやすいように背を平たくし、さらに滑り止めの小突起——ぶつぶつがついた専用のスプーンも出回っていた。また、ピンセット型のへたとりも売られていた。グチュグチュに潰して、混ぜ合わせて、となんとなく幼児っぽい食べかただが、当時はそれが上品な食べかただと思われていた節がある。へたをつまんで丸ごと口に放りこむ、なんていうのは野蛮で下品ということになっていた。

 蜜柑。皮をむく。房をひとつとって、丁寧に筋を取る。房の中心側を親指と人差し指でつまみ、外側の丸いほうを口にいれる。口をすぼめ、歯でしごいて袋の中身だけを残し、袋(薄皮)は指でつまんで取り出す。袋を食べないのなら筋を取る必要はないようにも思えるが、それは不問とする。わからないのはこういう食べかたのほうが上品だと思われていたこと。袋ごとバクバク食べてしまうのは野蛮で下品だという。一旦口に入れた袋を口外へ取り出すことは下品ではないのだろうか。

 いまではこんな食べかたをするひとはあまり見かけなくなったが、かつてはこちらのほうが主流だったような気がする。余計な一手間、二手間をかけ、丸ごとではなく、若干の加工を施すことが上品だと思われていた。不思議なことだ。

 ちなみにわたしは当時から、苺も蜜柑も丸のまま食べていた。