水たまりの虹

 まったく唐突ではあるが、その昔、道路の水たまりに虹を見た。水たまりにうすく油が浮き、それが陽の光を浴びて虹色に輝いていた。下を向いたまま、お日さまとお話をしている気分になることもあった。

 最近こんな光景を目にした記憶がない。自動車の機密性が向上し、ガソリンが漏れるようなことはなくなったからだろう。

 いやいや、そうではないかもしれない。虹は相変わらずできているのかもしれない。交通量が増え、水たまりを覗く余裕がなくなってしまったのかもしれない。水たまりの虹は話し相手をずっと待っているのかも知れない。

 じわじわっと柔らかなこころが失われていく。これは悲しいことなのだろう。