パン屋さん

 昭和の町には、ところどころにパン屋さんがあった。などというと、首を傾げるひとも多いことでしょう。首を傾げるのは昭和のことではなく、いまのことです。

 パン屋さんと言えば、今も少なくはありません。むしろ昭和のころよりもかなり増えているでしょう。しかも、いまのパン屋さんのほうが美味しそうなパンを売っています。

 いえ、その違いに注目したいのです。今の時代、パン屋さんはある意味流行りでもあります。その多くは趣味的なパン屋さん。大概が、自家でこだわりのパンを焼いています。今、流行っているのはこの、製造直販のパン屋さんです。

 昭和のパン屋さんは違います。自分で焼いている店なんてほとんどありません。どこかの製造メーカーが作ったパンを仕入れて売っているのです。メインは食パン。それに菓子パンが色を添えます。あんパン、ジャムパン、クリームパン、この三つがはいった三食パン。巻き貝のようなチョコレートパンもありました。手作りのものがあるとしても、それはパンの手作りではなく、出来合いの食パンを使ってのサンドイッチくらいでしょう。野菜サンドか卵サンド、ジャムサンド。ハムサンドは多くはなかった。

 これなら家さえあれば、手軽に商売を始めることができたのでしょう。おやつではなく、三食の一食としてのパン食がそろそろはじまったころです。こんな手軽なパン屋さんでもそこそこ成り立っていたようです。それどころか無くてはならない存在でもあったようです。食パンを焼くいろいろなタイプのトースターが売れ始めたのもこのころです。