ミルクホール

 ミルクホールというものがあった。わたしが覚えているのは一軒だけで、それが標準的なものかどうかは定かではない。

 とりあえず、わたしの知っているミルクホールはごく近所にあった。それはパン屋さんだか牛乳屋さんだかの二階に後付けで造られた。パン屋だったか牛乳屋だったかはとんと思い出せない。

 隣家の女学生に連れられて行きました。いや、わたしをダシにして女学生自身が行きたかったのでしょう。一階の店の中にある階段をのぼって二階にあがるとそこがミルクホールだった。

 ミルクホールではあったかい牛乳に砂糖を入れて飲んだ。トーストや菓子パン、サンドイッチなどもあったようだが、わたしは食べなかった。珈琲や紅茶があったかどうかは定かではない。というより、珈琲、紅茶なるものをまだ知らなかった。

 で、ミルクホールで何をするのか。それは、あーた、もちろん、テレビですよ。テレビを観るのです。相撲のときがあれば、ロカビリーのときもあり、定かではないが、ポールアンカの映像も観たような気がする。ね、女学生好みでしょ。ロカビリーは当然のこととして、当時は女学生も相撲を観ていました。プロレスも観ていたでしょう。それはさておき、やっぱりわたしはダシだったのです。どう見ても、ひとに見せたくなるような可愛い子どもではなかったから、このワタクシめは。

 でも、ダシでもなんでもよかった。ミルクホールで甘くて暖かい牛乳を飲みながらテレビを観ることができたのだから。見栄より物欲です、もちろん。