ひとさらい
昭和の時代「人さらい」という言葉をよく耳にした。こっそりと子どもをさらって行くそうだ。多くは身代金目的の誘拐ではない。ではなぜ? 連れてきた子どもを売り飛ばすというのがもっともの噂だった。
売り先は外国というのもあったが、多くはサーカスであった。サーカス団は買った子どもに芸を仕込む。よその子なので厳しく仕込む。危険な技などもおそれずに仕込む。
とまことしやかにささやかれていたが、本当のところはどうなのだろう?
サーカスとていくら使い捨てとはいえ、そんなにたくさんの人材は要らないだろう。
というのもあるけれど、それよりもなによりも、さらわれた具体例を聞いたことがない。夕暮れ時に早く家に帰らせるための脅しだったのかもしれない。
もう少し突っ込むと、なんらなかの理由で子どもが居なくなったときに、それを人さらいのせいにしていた、ということもあり得そうな感じがする。
子どもがいなくなるなんらかの理由とは、死亡(隠す理由がわからないが)、養子縁組、あるいはもしかしたら親による人身売買なんてこともあったのかもしれない。それらをみな人さらいのせいにしていたのかもしれない。
現在は、人さらいなんて言葉はほとんど耳にしないが、実子であろうがよその子どもであろうが、簡単に殺してしまう事件が頻繁に起こっている。
人さらいと殺人、どちらも痛ましいことである。いつになってもなくならないのが情けない。