押し売り

 昭和の時代、怖かったもののひとつに押し売りがある。男親が働きに出ている昼間にやってくる。玄関先に座り込んでは鞄をあけ中のものを売る。

 着ているものはみすぼらしく、髪の毛はぐしゃぐしゃ、無精髭がもじゃもじゃ。売っているのは、なんじゃこりゃというものばかり。歯ブラシだとか、ゴム紐だとか、たわしだとか。欲しくなるようなものは何もない。刑務所を出て来たばかりというのが常套句。恐怖心だけで売りつける。

 というのが漫画などで描かれる典型的な押し売りなのだが、実物もおおむねその通りだった。独創性の少ない世界だったのかも(笑)

 ものがものだけに、決して高くはない。ちょこっとだけ買ってやるから、早くお引き取り願いたい。相手がそんな気持ちになればしめたもの。押し売りにしたって、無理やり売りつけはするけれど、理不尽に高く売ろうとはしない。犯罪には違いなかろうが、ひとつひとつは大きな犯罪とはならない。被害もさほど大きなものではない。

 いまの世の中、脅して売りつける押し売りは見かけなくなったが、代わって現れたのが、振り込め詐欺。ひとの好意につけ込んで多額の金銭を奪いとる犯罪。これは極めて悪質。好意につけ込むというのがまずひとつ。弱い者をかもにするというのが二つ目。そして、その後の生活がなりたたないほどにまで身ぐるみ剥いでしまうのが三つ目。

 押し売りから詐欺。この点に関しては、とてもいやな時代となってしまった。

 ところで、マイナンバー制度がはじまるとどんな犯罪が現れることやら。かなりあくどい手段で、しかも全財産を奪いとってしまったり、さらには蓄え以上のものを奪い取り巨額の借金を背負われてしまうような、超悪質な犯罪まで現れそうな予感がする。杞憂であればよいのだが。