押し売り

 昭和に時代、押し売りという商売(?)があった。戸締まりがまだまだ曖昧だったころの話である。留守が少なく、家には誰かがいたころの話である。

 がらがらっと戸を開けて(ドアではなく引き戸が多かった)勝手に入りこみ、どかっと座り込む。家のひとがでてくるとおもむろに鞄を開けて、ひとつづつ売り物を取り出す。たいていは、くだらないものである。漫画やコメディなどでお馴染みなのはゴム紐。これはおそらく、長いものを適当に切って、適当な値段で売ることが出来たからだろう。歯磨きやらマッチも良く出てきた。どれもくだらないもの、要らないものばかり。

 押し売りは強面の顔に小汚い衣装。玄関先ですごむこともある。漫画やコメディでは「ムショ(刑務所)を出てきたばかり」というのが常套句になっている。買うまで帰らない。根気比べである。

 ただ、少し救われるのは、品物がくだないものばかりなので、値段も高くはないこと。そこそこの金額でさっさと引き上げていく。払えなくもない金額、というのが押し売りにとっても、得やすい金額ということなのだろう。

 いまの時代の、巧妙な振り込め詐欺や高齢者を餌食とするインチキ商法などに比べれば可愛いもの、ということもできる。いまの時代、押し売りに比べれば被害に遭うひとの数は少ないが、被害に遭った場合の被害額は遙かに高い。生命に関わるケースも少なくない。さて、どちらがよりいやな時代だろうか?