大掃除

 年も押し迫ってくると大掃除の季節である。

 いま、大掃除の対象としてまっさきに挙がるのは換気扇の掃除だろう。油でべとべとになった換気扇。かなり厄介な相手である。

 が、昭和の大掃除といって、一番に挙がるのは換気扇ではなかった。いや、換気扇は番外にも挙がらなかっただろう。なぜならば、一般家庭には換気扇はまだまだ普及していなかったから。

 昭和の大掃除の一番手。その大変さは換気扇どころではない。朝から一家総出でかからなけらばこなすことが出来ないほどの大変さだ。

 そのたいへんな作業とは……、それは畳あげ。家中の畳をすべて外して、外へ運び出して日光に干すのだ。まだまだ、洋間が少なく、ほとんどの部屋が畳だった時代、畳の数もたくさんあった。畳を外すためには、その前に畳の上に乗っている家具を移動しなければならない。家中のものをあっちへ運びこっちへ移動するとんでもない大仕事だった。

 家具をどかし、畳を外へ運び出し日に干し風に当てる。畳の下に敷いてあった新聞紙を捨てる。このときに、一年前の新聞に読みふけってしまうのは、よくある漫画の世界。新聞紙を捨てたあとを箒で掃き、ちりとりでごみを受ける。掃除機はまだ普及していなかった。床板にもしばし風をあてる。午後に入ってから、新しい新聞紙を敷き、畳を入れる。このとき、どの畳がどこにあって、どの向きに敷かれていたのかを間違うと大変。畳が収まらなくなってくる。これをあっちに、あれをそっちにと右往左往。そして家具をもとに戻す。日がとっぷりと沈んだ頃にようやく終了。

 炊事の場所や時間が取れない時もある。畳を上げてしまっているので座って食べるところはない。なので、年に数少ない外食や出前の日でもあった。

 今は、畳も少なくなり、また集合住宅では干す場所もない。年末の畳あげは、ほとんど見かけなくなった光景である。