路地の写真家

 かつては変わった商売があった。

 カメラを肩に路地に入ってくる。カメラは大概上から除く蛇腹式のものである。シャッターをセットしてからシャッターボタンを押すタイプ。

 写真家はそこで遊ぶこどもをひとりずつ写真に収める。原則ひとり一枚だが、兄弟とわかれば一緒に撮ることもある。決してロリコン趣味の盗撮ではない。まともな商売である。後日、それを現像、焼きまして売りに来るのだ。

 被写体の子どもを見つけては家を訊く。玄関をあけて出てくる母親にその写真を見せて売る。押し売りではないので、要らないと言わればさっさと引き下がる。売れなければ、フィルム代、現像_焼き付け料が無駄になってしまう。だが、商売が続いていたところを見ると結構売れていたのだろう。

 なにしろ、カメラが欲しくとも容易には手が出なかった頃のことである。写真は貴重なもの。なので、そこそこ売れて、商売として成り立っていたようである。

 デジカメや携帯で気軽に何枚でも写真を撮ることのできる今、うそのような話である。