野良犬

 かつては街のあちこちに野良犬がいた。大きいのもいれば小さいのもいる。やたら攻撃的なものいれば静かでおとなしいのもいる。徒党をなしているのもいれば、孤高を守るのもいる。いろいろあるが、あちこちに野良犬がいた。

 臆病な野良犬は、こちらが怖がる素振りをみせると、威嚇するように吠え、時には走って向かってくることもあった。あわてて逃げ、ゴミ箱に飛び乗って何を逃れたこともあった。いまでは、そのゴミ箱もなくなってしまった。もっとも野良犬が減り、あわてて逃げることもなくなったので、その意味では、ゴミ箱がなくなっても一向に構わないけれど。

 ジョギングの最大の大敵は野良犬だった。走っていて野良犬に出くわすと、まずは立ち止まり、おそるおそるすり抜けて、振り返らずにもう十分と思うところまで歩いてから、再度走り始める、なんてことをしていた。走り始めてから、しばらくは犬が追ってこないかとビクビクものだった。

 その野良犬がいつもまにかいなくなった。捨て犬が減ったことは確かだろう。なので新たに野良となる犬が減ったのは間違いないだろう。だけど、もともといた野良犬が子孫を残しているはずだがその子どもたちが見当たらない理由はわからない。犬殺しが増えたり、保険所の野犬狩りが徹底したようには思われない。カラスに餌を奪われてしまったから、という原因も浮かんだがどんなものだろう。

 そういえば、犬殺しを生業としていたひともいるようだが、殺した犬をどうしていたのだろうか。なにが金になったのだろうか。改めて考えると良くわからない。