検札とキセル

 昭和に時代、キセルが横行していた。キセルとは不正乗車のことである。全区間の乗車券を買わずに、乗車駅、下車駅の近辺だけの乗車券を買い、中抜きをして安く済ますことである。どちらかの区間だけ定期券を持っていることが多かった。

 キセル(煙草をすう道具、パイプのようなもの)は手前の吸い口と先っちょの煙草を容れるところだけが金属であとは竹などの木でできている。両端だけがちゃんとしているので、不正乗車のやりかたをこれにもしてキセルと呼んでいた。

 この不正乗車に対抗するために、鉄道側は検札というものを行っていた。走っている電車の中で乗車券を確認することによって不正乗車を見つけようとした。新幹線などではいまでもやっている。

 検札は必ずやるわけではない。不定期の抜き打ちである。検札に当たると、不正乗車で乗っている人は不運と諦める。が、あわてない。乗車時の乗車券を見せてどうどうと車内精算する。これは悪いことではない。極めて普通の行為である。検札にきた車掌さんも通常の対応をし、とがめたりはしない。

 不正乗車者は検札に当たれば不運とあきらめ正規の料金を支払う。当たらなければラッキーの丸もうけ、という気持ちでいる。

 この不正乗車、最近になってぐうんと減ったことだろう。それはIC乗車券の普及による。乗車時、降車時にIC乗車券をかざして改札を通過すれば不正乗車のやりようがない(多分)。片側の定期券を持っていてもだめ。定期のない区間はきっちり引き落とされる。

 IC乗車券を使っても不正乗車のやりかたはあるのかもしれない(わたしには思いつかないが)が、そのために手間をかけるよりも、正しい乗車をして、すぱっと通り抜けるほうが得、と考えているのだろう。

 鉄道会社にとって、ICカードの出現・普及は思わぬ余録をもたらしたのかもしれない。