犬の遠吠え

 むかしは真夜中の静寂な状況をあらわす典型のひとつに犬の遠吠えがあった。犬の遠吠えは、真夜中の寂寥感を高める共同認識であった。

 ところが、気がついたら、近ごろ、犬の遠吠えを聞くことはほとんどなくなっている。夜が真っ暗ではなく、静寂でもなくなってしまったことも、遠吠えを聞かなくなった大きな要因だろう。

 いや、それだけではない。夜に限らず、犬の吠え声そのものをあまり聞かなくなってはいないだろうか。吠える犬が減ったような気がする。躾が徹底したのか、はたまた、犬の野生度が減ったのだろうか。

 これは良いことなのだろうか、それとも何かの悪い兆候……?