ひょうちゃんの怪

 崎陽軒の焼売についてくる醤油差しをひょうちゃんという。といっても、現在の焼売弁当についているプラスチック製の容器のことではない。かつて醤油はひょうたん型の小さな陶器に入っていた。ひょうたん型だからひょうちゃん。わかりやすい。

 と書いたところで、その醤油差しの栓はどうなっていたのか? コルク栓のようなものが詰まっていたようなきもするが定かではない。もどかしい。

 そのひょうちゃんのデザインがいくつかあるらしい。それを集めているマニアも……、それは居るでしょうね。

 我が家にもひょうちゃんはたくさんあった。焼売を食べさせてもらった記憶はほとんどないのだが、どうしてひょうちゃんだけがあるのか、不思議ではあるが。いや、これは我が家だけでなく、ひょうちゃんのある家はけっこうあった。なにげなく転がっている場合もあれば、食事どきに箸置きとして現れることもある(ひょうたんのくびれに箸を置けば、箸が転がらない)。箸置きとしてのひょうちゃんはあちこちで見かけたような気がする。

 崎陽軒の焼売と言えば、まずは駅弁であろう。が、当時は駅弁を食べるような汽車旅をするひとは、いまほどには多くはなかった。店で弁当を買って食べるような習慣もあまりなかった。では、どこで崎陽軒の焼売を食べたのだろう。ちょっと思い浮かばない。ひょうちゃんの怪である。おっと、食べた記憶がないのだから、ひょうちゃんの栓の記憶がないのは当たり前か。