タッパーウェア

 一時期のあこがれの商品にタッパーウェアというものがありました。タッパーウェアというのは固有の商品名で一般名詞ではありません。密閉型のプラスチック容器の商品名です。

 プラスチック製密閉容器は、今では百円ショップでも売られていますが、当時は商品自体がありませんでした。フランス製のタッパーウェアが唯一の商品でした。いまでも、密閉容器をタッパーと呼ぶいひとは少なくはない。セロテープやホッチキス同様に固有名詞が一般名詞化している。

 外国の大学で数学を教えている教授の息子というのが、同じクラスにいて、かれが、そのタッパーウェアを弁当箱として利用していた。それを羨望のまなざしで眺めていた。ステータスが一段も二段も違うような気持ちになった。

 そのタッパーウェアであるが、日本でも手に入るようなってきた。ところがその販売方法が普通ではない。荒物屋さんはおろか、デパートでも売られていない。

 ホームパーティに参加してそこで買うのである。ホームパーティのバックアップはもちろんタッパーウェア社。主催は一般のひとである。主催者は近所のひとを集めて、自宅でパーティを行う。食べ物などはタッパー社が用意する。もちろん、タッパーウェアに容れて提供する。パーティそのものがまだ珍しい時代の話である。

 パーティーの主目的はもちろん飲み食いではない。タッパーウェアの販売であり、購入である。タッパーウェアはここでしか買えない。だから、パーティに招かれた人には、買う権利を得たことによって、選民気分が芽生える。エリートである。みんなが持っていないものを買うことができる。しかもそれば至極便利なものである。売るほうも買うほうも、双方ハッピー。かつてはそんな商売もあったのだ。主催者はなにがしかの報償を得たであろうがそれはさておく。

 こんな、特殊な型式の販売でありながら、いつの間にかタッパーウェアは広く行き渡るようになり、普通名詞化していった。いまになって思えば不思議な光景である。