テレビ……一家に何台?

 むろん、テレビは一家に一台だった。どの家にもあったという意味ではなく、一家には一台しかなかったという意味である。

 椅子の生活は未だ普及せず、畳の生活が普通だった。部屋数も少なかった。冷暖房はみすぼらしいものであった。必然的に家族全員が一部屋に集まり、夕食後から寝るまでの時間を共有した。テレビはその中心にあった。

 一家に一台。値段が高くて買えないこともあるが、住空間の制限からも一家に一台であった。当たり前だが、みなが同じ番組を観た。ときには、観たい番組が異なり、争いが生ずることもあった。これを〝チャンネル争い〟と称した。チャンネル争いは、多数決、力づく、年の功などで解決された。

 そうこうするうちに、豊になったのかどうかは知らないが、子どもが自分の部屋をもつようになり、また、好みも多様化してきた。テレビも安くなってきた。ということで、一家に一台の枠が外れるようになってきた。テレビは一家で観るものから、ひとりで観るものへと変化してきた。家族の数だけテレビがある家も珍しくはなくなった。

 が、その後、テレビの台数はまた、減ってきたように思われる。いまは、四五人家族でも二台くらいではなかろうか。それで間に合うようになってきた。

 趣味が多様化しテレビが娯楽の主役ではなくなってきたこともある。いわゆるテレビ離れ、である。あるいは、録画が簡単になって、必ずしも放映時刻に見る必要がなくなったこともある。これなら一台でもこと足りる。

 背景は大きく様変わりしているが、数だけみれば、初心に帰った感がある。