路地の写真売り

 妙な商売があった。

 むかし子どもたちは家の前の路地で遊んでいた。そのこどもの写真を撮って歩くひとがいた。展示会をやったり本を出したりするためではない。

 撮った写真を現像して後日売り歩くのだ。買うのはむろん、こどもの親。まだまだ、カメラが高級だったころの話である。カメラを持っていないので撮りたくともこどもの写真を撮ることができなかったころの話である。写真を売りに来た日もその子どもは同じ路地で遊んでいる。そして、大概は同じ服を着ている。写真を撮った路地へ行けば、子どもの家は簡単に見つかった。うまい商売だったかもしれない。

 その後、カメラは普及し、子ども写真を撮り編めるパパ・ママが増えてきた。子どもが生まれてすぐに買うのがカメラだった。こうなると、撮った写真を売る商売は成り立たなくなってしまう。そして、なくなってしまった。

 カメラは普及するし、子どもは路地で遊ばなくなってしまった。商売に適した環境ではなくなってしまった。

 これとは別に、市民マラソン大会で走っている選手の写真を撮って、そのナンバーをたよりに販売する商売も現れた。さずがにカメラを持って走ることはできない。自撮りも難しい。初マラソン完走、などとなれば記念の写真が欲しいかもしれない。それもレース前やレース後でなく走っている姿が。さて、こちらの商売はまだ続いているのだろうか。マラソンを止めてしまったので確認することができない。