はえ取り器、はえ取り紙

 蠅は今も昔もぶんぶん飛び回っている。

 わたしだけかもしれないが、昔の蠅のほうが今の蠅よりも不潔感が漂っていたような気がする。それなりの理由もある。身の回りの環境も昔のほうが非衛生的であったから。

 最大の違いはトイレ。昔は当然くみ取り式、言い換えれば溜め置き式。そこに蠅がたかる。当然、感覚的にも実際にも、その蠅は非常に不潔。それに比べれば今はそれほど不潔なところが見あたらない。

 なので、蠅はブンブンとうるさいだけのお邪魔虫でおさまっている。

 昔は、とにかくきたない、不衛生な虫であった。見つけたらとにかくやっつける。血眼になって闘いを挑む。

 スプレー式の殺虫剤も比較的早くに開発され販売された。結構強力ではあったが、苦手なポジションがある。それは天井。上を向けて発射してもうまく届かない。スプレーした本人に降りかかってくるばかりだ。

 そんなわけで、天井専用のはえ取り器が開発された。なかなかのアイデア商品である。

 ガラス製である。上にロート状の口がある。その下に細長い直線の管が繋がり、管の下は球状になっている。

 この球の部分に水を容れる。天井に止まっている蠅を見つけたら、下からそっとロートを被せる。捕らえられたことに気がついた蠅は飛んで逃げようとする。が、閉じこめれれているのでうまく飛ぶことができない。疲れる。高度が下がる。下がると管の部分に入ってしまう。ここに入ってしまうと、ホバリングのできない蠅はもう逃げれれない。疲労とともに徐々に落下し、最後は球場の水に飲まれてしまう。一環の終わりである。

 機能的によく考えられた形をしており、また、透明なガラス製なので見栄えも良い。過日、喫茶店の店内にインテリアとして、展示されているのを見た。なかなか美しい。知っているひとには懐かしい品物であり、知らないひとにとっては美的な工芸品である。

 もうひとつのはえ取り製品として、はえ取り紙、またの名をはえ取りリボンがある。粘着性のある細長いリボンで、これを天井からつり下げる。リボンの下には、風でそよがないようにおもりが着いている。飛んでいる蠅はこのリボンに触れると粘着力で逃げられなくなってしまう。言ってみればゴキブリホイホイの元祖のようなものである。

 が、こいつはいけない。蠅が捕れるのは良いけれど、捕まえた蠅がベタベタ貼りついていて、不潔感きわまりない。茶色いリボンの色も汚らしい。これは時代が変わっても、絶対にインテリア装飾にはなりえない。