寄生虫検査もしくは検便

 トイレはくみ取り式、くみ取った便は肥料として再利用。かつてはそれがあたりまえだった。

 であるから、体内に寄生虫を宿していることもほぼ当たり前のことだった。便に交じって排泄された卵が便の中で孵化し、その便が肥料として撒かれた野菜について成長し、再び体内に帰ってくる。そんなサイクルは当たり前であった。サナダムシは野菜の代わりに魚の中で成長し、最終宿主である人体へと戻ってくる。

 当たり前ではあるけれど、保健衛生上はよろしくないことと判断されていた。背景にはアメリカの指導などもあったようだ。

 それで、年に何度か寄生虫の検査があった。なんのことはない、〝検便〟である。今のようなスマートな検便ではない。肛門から出たうんこをうまくすくい取り、適当な大きさにちぎってマッチ箱にいれて提出する。

 提出日には教室の隅にちり取りがおかれ、その中に持ってきたマッチ箱を置く。マッチ箱には名前を書いた紙がのり付けされている。むろん、男子だけではなく女子の便もある。すました女子の便も名前を書いたマッチ箱のなかに治まっている。この日に限って、清楚だの、色気だのというものは台なしだ。

 ひとりひとりの便は小さくとも、五十人分が集まるとそれなりに匂いを発する。その中には可愛い女子の便も含まれている。なんとも妙な気分だ。

 後日、寄生虫が検出された生徒には虫下しが配られる。飲みやすいようにチョコレート風にするなどの工夫がなされていた。クラスで数人に配られていた。寄生虫保有率は十パーセント前後といったところだっただろうか。

 世の中の清潔志向、環境整備、化学肥料の普及などなどがあいまって、最近では寄生虫はめっきり減ってしまったようだ。もしかしたら、絶滅危惧種に登録されるかもしれない。

 寄生虫が無くなることがよいことなのかどうなのか。それはまた別の問題である。