検便

 学校では毎年検便が実施された。腸の病気を調べるのが目的ではなく、寄生虫の有無を調べるためであった。便そのものを提出して卵の有無を調べていた。卵が見つかった生徒には虫下しが渡された。これを貰うのはもちろん恥ずかしいことだった。

 まずは便の採取。当時のトイレはまだ和式の汲み取り式。落とさないように取るのが難しかった。すました女子やかわいらしい女子も同じことをやっていたはず。

 次はマッチ箱への移し替え。便は名前を書いたマッチ箱に入れて提出する。採取した便をこのマッチ箱に移すのがまた一苦労。採取した紙からマッチ箱へポタッと落ちてくれればよいのだがなかなかうまくいかない。あらぬ方向へ飛ばないように注意しながら、おそるおそる紙を振る。箱の外側にくっつけてはいけない。すました女子やかわいらしい女子も同じことをやっていたはず。

 そして、恥ずかしいのは便の提出。提出されたマッチ箱はクラスごとにまとめられる。それぞれに生の中身が入っているのだから当然匂う。すました女子やかわいらしい女子の名前を書いたマッチ箱も置かれている。それらもたぶん匂っていたのだろう。

 検便はやがて接着剤のついたセロハンに置き換えられ、生の便を提出することはなくなった。これは画期的なことである。さらに、しばらくあとには、寄生虫そのものが激減し、検査そのものがなくなってしまった。

 それにあわせて、かどうかはしらないが、マッチ箱も消えてしまった。