ゴミ箱

 家の外にゴミ箱があった。防腐剤の黒い色をした木製のゴミ箱が塀にくっついておかれていた。上部が蝶番止めのフタになっていた。おとなひとりがかがんで入れるほどの大きさである。漫画やコメディーではよくひとが隠れていた。同じ形をしたコンクリート製のゴミ箱もあった。

 燃えるゴミも、生ゴミも、瓶も缶も貝殻も、分別せずに放り込まれていた。ビニール袋を使い捨てにできるような時代ではなかったので、生ゴミはせいぜいのところ新聞紙にくるんで捨てられていた。したがって悪臭がただよい、ウジ虫がはい回り、ハエが飛び交っていた。

 なかのゴミをいつ誰がどのように回収に来たのかは残念ながら記憶がない。また、すべての家庭にゴミ箱があったかどうかも記憶にない。我が家にもあった記憶はないのだが、ゴミ箱のない家はどうやってゴミを出していたのだろうか。

 ときは経ち、円筒状のプラスチック製のゴミ箱が普及してきた。いや、普及したのではなく、行政の指導だったのかもしれない。ゴミ収集車が広く使われるようになったのと関係があるかも知れない。

 収拾日にはゴミ箱を外に出しておく。収集作業者はゴミ箱ひとつひとつをひっくり返して中のゴミを収集車に食わせていく。

 そのプラスチックのゴミ箱も消えてしまった。いまは、ゴミはビニール袋に入れて出す。ゴミ箱ごと出しても持って行ってはもらえない。

 まあ、どちらが良い悪いではなく、時代の遷移であろう。もっとも、ゴミ箱にはあまり郷愁は感じないが。同じくいまは少なくなった野良犬に追いかけられたときに飛び乗って逃げたり、よその家にボールが入ってしまったときに塀を乗り越えるときの足がかりにしたくらい、つまりゴミを棄てることよりもその上に乗ったことの記憶しか残っていない。