落書き

 スプレイ缶のペイントを使った、一種独特なフォント(?)による派手ならくがきをあちこちで見かける。建物の壁などに大きな文字で自らの属する集団名などを描きつける。消しにくい油性塗料である。なかには芸術的に見えるものもあるし、どうやってこんなところに、と鳶顔負けの場所に描いたものもある。落書きの動機は自己顕示欲であろうか。

 むかしはそんな落書きはほとんど無かった。大描き(の開始時期)はおそらくは70年前後の学園扮装に端を発しているのではなかろうか。

 それまでの落書きといえば、道路やコンクリート塀への蝋石やチョークで描かれていた。漫画が多かった。描き手の多くは子ども。だれかに見せたいからではなく、単に画用紙の変わりに壁や道路に描いただけのように思われる。紙代は要らないし、大きな絵も描ける。

 もうひとつの落書きの定番はトイレの壁。これは変化に富んでいる。エロが一番、二番はお笑い。「こっちを見ろ」と書いて矢印。矢印の先を見ると「あっちを見ろ」と書いて矢印。矢印の先を見ると「狭いトイレでキョロキョロするな」。あるいは、「汝、カミに見放されしとき、自らの手でウンをつかめ」とか。また、ときには明治の青年風の哲学的な落書きもあった。具体的なことは忘れてしまったが。

 これらは他人に読ませることを狙った落書きであろう。

 落書きもまた、時代と友に形をかえ、中身を変えている。

 なお、ネットでの誹謗・抽象なんていうのは落書きではない。あれは、ある種の犯罪であろう。