油引き——昭和の匂い

 学校の床の話です。床はもちろん木製。その木の床に油をしみこませてある。おそらくはモップかなにかで定期的に、ワックス掛けならぬ油掛けをしていたのだろう。

 なんのために? いまだに良くわからない。

 油によって床が長持ちするのだろうか? 水分をはじくので腐りにくい? いや、教室に水分はあまりないだろう。そうそう、なにかの拍子でバケツの水などをこぼしてしまうと、油引きの床はスケート場に変身しまいた。

 油引きすると汚れがつきにくいのだろうか? 油引きしていない床は掃雑巾掛けをさせられたが、油引きの床は箒で掃くだけだった。ということは汚れがつきにくい? いや、油引きしてしまうと、水拭きができないからではなかろうか。むしろ油引きそのものが汚らしいような気もする。どういうわけか、罰として床に正座をさせられることの多かったわたしのズボンはいつも油でテカテカであった。

 忘れられないのはあの匂い。学校の匂いというと、まっ先にあの油の匂いを思い出す。教室の油引きの匂いもまた昭和の匂いである。

 さて、今はどうなっているのだろうか。いまも油引きをしているのだろうか? そんなことはないでしょうね。だって、油引きしようににも、木の床が無くなってしまったのだから。