印刷——謄写版、青焼き、ゼロックス

 昭和の印刷といえば謄写版である。原稿は、蝋引きの原紙に鉄筆で文字や絵を描く(つまり蝋を剥がす)。失敗したことろは鉄筆の頭でこすると、蝋がもどり消すことができる。わら半紙の上に原紙を置き、その上にインクをつけたローラーを転がすと、鉄筆で蝋を削ったところにインクが滲み通り印刷される。こうやって一枚一枚刷っていくのだが、一枚の原紙から大量部数を短時間に印刷できる輪転機もあった。輪転機といっても電動ではなく、ハンドルを手で回しす手動式だった。五十部刷るには五十回転しなければならない。

 学校を出て就職した頃は、青焼きの世界であった。鉛筆書きしたトレーシングペーパーと感光紙を重ね、蛍光灯ランプのついた印刷機にかけると鉛筆で書いた部分だけが青く印刷される。

 トレーシングペーパーと言う制限はあるにせよ、紙に鉛筆で原稿を作成できることは大いなる進歩である。もちろん、消しゴムによる修正も可能。

 欠点は、十枚印刷するには、感光紙と重ねて十回印刷機に通さなければならないこと。謄写版における輪転機のようなものはなかった。

 最初のころは湿式といって、光を当てた感光紙を液体につけて処理していた。このため、濡れた紙が出てきてあとの扱いが大変だった。原稿も液体に使ってしまい、あわてることもあった。

 その後、紙を濡らさない乾式に代わり、扱いはぐんと楽になった。

 そのころから、ゼロックスのような複写機あるにはあったが、器械その物も、またその使用量も非常に高価なため、特別な理由がなければ使わしてもらえなかった。

 ゼロックスは複数部数の印刷も枚数をボタンでセットするだけ。また、原稿はなんでもOKなので、本や既製の死霊を印刷することもでき、信じられないほど便利になった。

 ゼロックスが現れるまでは、本やノートのコピーをとる方法がなく、手で書き写すよりほかなかった。

 いや、「子どもの科学」などでに雑誌のコピー方法が紹介されていたがあぶなっかしくてとてもやる気にはならなかった。確か、ミシン油をつけた紙を印刷したいところに密着し、インクを浮かせて写し取ろうというもの。うまく映るかどうかも疑問だが、油で本が台なしになってしまいそう。