消えた東郷青児

 以前はごく当たり前のように目にしていたが、近ごろとんとみかけなくなったものがある。

 東郷青児の絵もそのひとつだろう。青白い独特の色遣い、なよやかな曲線、エネルギッシュではないが、それでいてにじみ出てくる生命。上品、繊細、女性っぽさ。

 絵を言葉であらわすことは難しいが、とにかく一目で作者がわかる独特な絵。

 新聞や雑誌にも頻繁に登場し、それらを切り抜いた絵もあちこちに貼られていた。

 それほどに町中にあふれていた絵なのに、いつの頃からか、まったく目にしなくなった。何が転機だったのだろう? 竹久夢二などはいまだに根強い人気が続いているが、東郷青児のほうはプッツリである。いまの若い世代でその画風をしっているひとはどれくらい居るだろうか? 町中にあふれていないだけでなく、知識すらも消えてしまっていることだろう。

 その境目はなに? 時間の流れとは不思議なものだ。