ピアノの音

 昭和のころ、休日の午前、午後はピアノを練習する音が角々から聞こえてきた。練習なので間違えたり、つかえたり、同じ所ばかりを繰り返していたりもする。上達する過程を知ることもできた。

 小曲ばかりなので、軽い気持ちで聞くことができ、柔らかく和(なご)やかで、いかにも休みの日にふさわしい情景だった。

 最近になって気がついたのだが、町からピアノのおさらいの音が聞こえなくなったような気がする。なぜなのだろう。

 ▼集合住宅になったので、通りを歩いていても上の階の音は聞こえないから。

 ▼騒音対策と称して、消音型のピアノが増えたから。そういえば、ピアノの音が騒音だと言って、訴訟があったり、事件に発展したこともありました。世知辛い世の中です。

 ▼趣味が多様化し、あるいは塾通いに追われ、そもそもピアノを習うひとが少なくなってきたから。

 理由はともあれ、生活の音の減少と相まって、なんとなく寂しい気もします。なんとなく、町が無機質になってしまったような……。町には潤いが欲しいものです。