牛乳瓶の蓋
昭和の牛乳はガラス瓶に入っていた。とうぜんながら瓶には蓋がされていた。
今のペットボトルのようなスクリュー式の洒落た蓋であるるはずはない。ビールの王冠のようなものでもない。
それは厚紙。瓶の口の内径よりもほんの少し大きなサイズの円盤形の厚紙が蓋になっていた。瓶の口に厚紙をきっちり押し込んで蓋としていた。この蓋をメンコ代わりにして遊んでいる奴もいた。蓋をした瓶の口には、衛生上のためか、ビニールが被さっていた。
蓋を開ける簡単な道具が牛乳屋さん(そういう専門店も普通にあった)が景品として配っていた。木製の棒に、蓋に突き刺す釘が埋め込まれたものだ。
まずはビニールカバーを外し、それから釘を蓋にぶすっと突き刺し、瓶の口をテコの視点として蓋を持ち上げて外す。蓋がはずれるときにパコッと音がする。
さて、小学校の頃、なんかの授業で各自だか各グループ毎に牛乳を持って行ったことがあった。中身の半分ほどを理科の実験かなにかで使った。
使ったのは半分だから、当然ながら半分残っている。さて、この半分をどうするか。飲んでしまえばそれでおしまいなのだが、ケチなわたしはそんなことはしない。外した蓋を再び詰め直してかばんに入れ家まで持ち帰った。
それで……。これも当然といえば当然だが、一度あけた紙の蓋がきっちり閉まるはずもなく、牛乳は全部、かばんの中にこぼれでてしまった。当然、教科書やらノートやらがビショビショになってしまう。しかも悪いことに水と違って、糊のように紙と紙を貼り付けてしまう。
さあ大変。清水で丁寧に洗い流す。なんとか復活したものもあればダメになってしまったものもある。
ほんのちょっとをケチったがために、とんでもないことになってしまった。しかも、自分で飲むならば、学校で飲もうと家に帰って飲もうと損も得もないことに気がついたのは、かなりあとになってからである。あな恥ずかしや。