山男

 かつて、山男というのは健全な男性のイメージであった。いわずもがなではあろうが、山男というのは、山に住む男ではなく、山登りを愛する男である。山姥とは命名の由来が異なる。それはさておき、

 山登りというのは、汗と埃にまみれ、野ぐそを常とし、けっして清潔なものではない。また、ひたすらストイックに坂を上り続けるばかりでさっそうとしたところもない。

 それがなぜ、健全で男性のイメージに繋がるのか?

 以下、わたしなりの暴論ですが……、

 山男の好ましいイメージはなんと、ダークダックスから来ている。ダークダックは、こよなく山登りを愛した、ということになっている。慶応出身の清潔で身元正しき、しかも、澄んだハーモニーをむねとするコーラスグループのダークダックスのイメージに山男を重ねているのだ。

 ということで、山男もダークダックスの唄う山の唄も、相乗効果で人気を博した。ある意味、単純で健全な時代だった。そういう時代も確かにあった。