洗面器

 顔を洗うときに洗面器を使っていたひとが多かったように思う。そもそもが顔を洗う器だから洗面器である。

 流しに置いた洗面器に水をため、その水を使って顔を洗う。これが当たり前の光景だった。

 わたしはなぜか洗面器を使わなかった。水道の蛇口からでる水を掌に受けてそれで顔を洗った。いまも同じだ。

 さて、世の中はどうであろう。洗面器がすたれ、流水直接派が圧倒的多数になっているのではなかろうか。

 なぜ? ためた水より、使い捨ての流水のほうが清潔だから? 洗面器を持ち出す手間が不要で手っ取り早いから? そういう理由もありそうだが、どうもそれだけではなさそうだ。ほかに何が? うーん、さっぱりわかりませぬ。

 それはそうとして。苺の食べかたといい、顔の洗いかたといい、当時は少数派だったわたくしめの作法が、いまや多数派となっている。流行の先端をいっているのだよ、このワタクシメが。えへん! といってもわたしの真似をして変化したひとは、ひとりたりともいないでしょうが。