とんぷく

 「頓服」と書く。

 医者にもらう薬のことを祖父母はこう呼んでいた。しかし、父母がそう呼ぶのを聞いたことはない。なので、わたしもそう呼んだことはない。

 広辞苑を引いてみると、〝分服でなく、その時1回に服用すること。また、その薬剤〟とある。つまり、1回分が包まれた薬のことを頓服と呼んでいたようだ。ビンに入った錠剤や、龍角散のように匙で必要分をすくって飲むようなものは頓服とは呼ばない。

 近ごろは医薬分離が進んでいるが、それまでは医者も薬を処方した。粉薬は1回分を四角い紙に乗せ、対角線を追って三角形を造り、端っこ折り曲げ、両端を折り返して……、と糊も鋏も使わずに包んでいた。

 白い紙と赤い紙があったように思う。どう違うのかわからないが、なんとなく赤い紙のほうが重大な薬が入っているような気がしていた。

 糊と鋏を使っていないから、開くのも簡単。順にほどいていけばよい。そのあと、再度包むのも簡単。折り跡を順に折っていけばよい。

 なので、医者が包んだあと、だれかがほどいて劇薬を混ぜ、知らん顔をして元通りに包んでおくことも可能。安易な探偵小説のトリックにもなる。

 いまはこんな包みかたはまったく目にしない。薬局で調合する薬も、1回分を四角い袋へ容れ、機械で封印している。第三者が異物を混入することは困難(注射器などで挿入することはできるかも)。

 解いたり包みなおしたり、で覚えた折りかたもすっかり忘れてしまった。