全集

 本来、全集といえば個人の全作品を集めたものを指すようだ。いま流通している全集も個人全集ばかりだ。

 ところが、日本文学全集だとか世界文学全集と銘打った全集が出回った時期がある。一社があてればほかの出版社も追随しえ各種全集が出そろっていた。少年少女文学全集などというのもあった。

 個人全集がその個人を徹底的に突き詰めようとしているのに対して、○○文学全集は、各作家の代表作だけを集めている。この全集を読めば、日本文学や外国文学に関して、基本的な作品を網羅的に読むことができる。図書館などには便利な企画だったかもしれない。

 まあ、実際には全集は全巻揃えても読むのは本の数冊といったところではなかろうか。それでもよいのでしょうね。ちょっと気になったときに手を伸ばせば読むことができる、という環境は。

 それになにより知的な飾りとしても最適だったのだろう。これまたブームだったマイホームの応接間の飾りとしてこれ以上のものはなかっただろう。応接間の飾りは本かトロフィーというのが定番だった。トロフィーがどことなくキンキラキンの成金趣味を感じさせるのに対して、本は知性を感じさせる。

 その○○全集がすっかり影を潜めてしまったのはどうしてなのだろう。代表作だけを集める企画にあきたらなくなってしまったのだろうか。そうであれば逞しいのだが、残念ながらそうではなさそうだ。やはり、活字離れ、知識離れ、の風潮が進んでいるのでしょうね。文学的な知識・見識よりももっと身近な情報が大事なのでしょう。