文学全集、百科事典

 住宅事情が多少良くなったのか、応接間を持つのがブームになった時期がある。

 そのとき、応接セットなるものが登場した。ひとり掛けの椅子が二つ、三人掛けの長いすがひとつ、そして低いテーブル。これが標準的だった。

 応接セットの次が硝子扉付きの本棚。ここにトロフィーなどを飾るのも流行ったようだが、本来は本であろう。その本は中身よりも見た目が重視される。

 古書店で見栄えの良い本を集めて、そのような本棚を置きたい見栄っ張りに売る商売の話を聞いたこともある。それはさておき、

 硝子扉付きの本棚に収めて見栄えのするは重厚な装丁の洋書や文学全集、百科事典。洋書はさておき、文学全集と百科事典、どちらも家庭訪問して売り歩くセールスマンがいた。

 ときが経ち、応接間はなくなり、硝子扉付きの本棚もなくなり、文学全集も百科事典もなくなってしまった。

 部屋の名前はリビングルームに変わり、ソファだけが生き残った。