座りかた

 テレビが普及しはじめたころ違和感のある光景をよく目にした。テレビ以外ではほとんど見かけない光景である。

 光景というと大げさだが、それは女性の座りかたである。

 テレビではイスに腰掛けた女性を正面から写すことが多かった。ミニスカートはまだ世に出ていなかったが、それでも座るとスカートから膝がでる。

 で、ほとんどの女性は、膝から下を床に対して30度くらい傾けて座っていた。右へ傾けるひと、左へ傾けるひととまちまちだが、どちらかへ傾けていた。かなり異様なことに思えた。

 これは決して座りやすい姿勢ではなく、まさにテレビ向けの姿勢だったのだろう。なので町中では、ほとんど目にすることはなかった。

 そんな座りかた、いまではほとんど見かけることがなくなった。その代わり、どんな座りかたをしているかというと……、それが思い出せない。まったく印象に残っていない。昔の座りかただそれだけ異様だったということなのだろう。