缶切り

 缶切りという道具があった。缶詰のふたを空けるための道具である。大きくわけで二通りのしくみがあった。

 ひとつは、テコの応用でギコギゴ切るタイプ。缶切りの支点を缶のフタの縁の裏側に引っかけ、長い持ち手を力点として前へ倒したり後ろへ戻したりしながら缶を一周する。持ち手と支点のあいだ、支点のすぐ上が作用点で刃がついてる。持ち手を前に倒した時に缶の蓋を切る。持ち手を後ろに戻しながら少し前進する。この加減がややむずかしくはあった。

 もう一つは、ヤットコのような仕組みで缶の縁をはさむ。ヤットコの先っちょに歯車状の回転式刃がついている。ヤットコで挟み込むことによって、この刃が缶の蓋に食い込む。その状態で、刃と一体となった蝶ねじをまわし、刃を回転しながら切り進む。

 仕組みととしてはテコ式のほうが簡単で、こちらのほうがはるかに普及していた。

 当時、唯一缶切りを必要としなかったのがコンビーフの缶詰。これは缶の側面を紐状に巻き取っていくことによって、側面と底面を切り離す方式である。

 最近の缶詰は、プルトップ方式というのか、缶切りを使わずとも爪を引っ張ることでパカッと開くようになっている。専用の道具は要らないし、手間も少ないし、フタの端で手を切ることもない。良いことずくめなのだが、(高価だった)缶詰を開ける高揚感のようなものはなくなってしまった。