スピッツ
昭和の犬といえばスピッツである。
アメリカがかっこよかった時代である。テレビでは「名犬ラッシー」のコリーや「名犬ロンドン」「名犬リンチンチン」のシェパードなどが人気を博していたが、どちらも大型犬。当時の日本では、住居の問題やら食事の問題やらで飼うのが難しかった。
それで、スピッツである。真っ白でソース顔。完全なる洋犬である。ただし、よく吠えた。多分、臆病者で恐怖を誤魔化すために吠えていたのだろう。
それはさておき、当時の犬は庭で飼われていた。室内で飼うのはきわめて希である。家の外で鎖につながれ、鎖の長さの範囲内で生活していた。
気軽に余所の犬を可愛がる風潮もなかった。なので、犬のほうでも人慣れしていなかった。だから、よく吠えた。
ドッグフードもなかった。いや、すでにあったかも知れないが普及はしていなかった。食べるのは人間と同じもの、主として残り物だった。
外に居るから蚊にも刺された。なので蚊が媒介するフィラリアが蔓延していた。犬の死因のトップクラスに位置していたのではなかろうか。それにしてもフィラリア、宿主を殺してしまってどうするのだろう。宿主の死は寄生虫の死に直結するのに。もっとも、種をつなげば(子孫を残せば)我が身はどうでもいいということなのだろうか。
とまあ、飼いかたはいまとは大いに違っていたが、ともかく、スピッツ全盛であった。
飼い犬の種類が多様化、多趣味化するなかで、スピッツを見かけることはほとんどなくなってしまった。当時の子孫たちはどうしているのだろうか。