堤防のない川

 昭和の時代には堤防のない小川が流れていた。平らな土地の中をいきなり川が流れていた。むろん、あくまでも小さな川である。堤防がないということは自然にできた川のままで、護岸工事もなされていない。川底はもちろん土である。

 堤防がないので水面に手を突っ込むこともできた。靴を脱いでジャブジャブ歩くこともできた。小魚がいた。ザリガニや蛙もいた。げんごろうやたがめは……。ヌルヌルした藻が茂っているところもあった。場所毎に異なる水草が繁殖していた。

 普段はせいぜい足首くらいの深さだが、台風や集中豪雨のときなどは信じられないほどに水かさが増し、ものすごい勢いで流れる。狂ったような流れ、恐ろしい流れである。事実、ときおり、子どもが流されて命を落とすこともある。とてつもないパワーに圧倒され、水神さまや龍、大蛇の祟りと考えたくなる。

 これが自然なのだ。普段は優しい顔をさいているが、ときによって豹変する。自然とは人間の力や予測を越えたものなのなのだ。

 いまの時代、ほぼ全部の河川は底と側面をコンクリートで固められてしまった。そしてほとんどの河川には堤防が築かれている。なので、川と戯れることはむずかしくなってしまった。随所に親水公園なども作られているがあれは別物であろう。一方で、台風や集中豪雨時の恐ろしさは変わっていないが。むろん安全性は格段に高まっている(はずだが)。いや、待てよ。堤防が高くなり三面がコンクリートになった結果、増水していない時に落ちるとかなり危険になってしまったかも。