いちごの食べかた

 ご飯やみかんの食べかたにくらべれば、気にするほどのことはないかも知れないが、昭和の時代、イチゴも奇妙な食べかたをしていた。

 へたをとったイチゴをフチのある深い皿にいれる。それをスプーンの背でつぶす。このための専用のスプーンも売られていた。それは背がたいらになっていて、そこに小さなボチボチがついていた。イチゴを全部つぶし終わったら、そこに砂糖をかける。そしてその上から牛乳をそそぐ。これで準備完了。

 イチゴを牛乳と一緒にスプーンですくって食べる。これは別に理不尽でもなく下品でもない。いま、やっても案外うまいものかもしれない。

 でも、いちごというもの、そのままつまんでぽいっと口に放り込むのが一番うまいと思う。げんに、いまはたいていのひとがそうしている。

 では、どうしてそんな食べかたをしていたのだろうか。それは多分、当時のイチゴはいまより大分酸っぱかったのではなかろうか。そして、当時の日本人は酸っぱさ、特に果物の酸っぱさにあまり慣れていなかったのではなかろうか。なので、酸っぱさの直撃を避け分散させるために潰したのだろう。砂糖をまぶすのはむろん、酸っぱさを減ずるため。牛乳に浸すのは、砂糖を均一にイチゴにまぶすためだったのだろう。

 いまではイチゴが甘くなり酸っぱさも減っている。そして、日本人も果物の酸っぱさに慣れ親しんできた。だから、イチゴをまるのまま食べるようになってきたのだろう。