みかんの食べかた

 フォークで食べるご飯も奇妙な方法が広まっていたが、昭和の時代、みかんも変な食べかたをするひとがいた。対象となるみかんは、温州蜜柑などの冬に出回る小ぶりなみかん。夏みかんや八朔などの大きなものではありません。

 その食べかたというのは、まず皮をむく。一房とりわけてそれを口に入れる。その際、房の内側にあった部分を親指と人差し指でつまんだまま口へ入れる。口へ入れてもつまんだままである。次につまんだ指を引いて房を引きずり出す。この時に、歯で袋をしごく。すると袋の中身は口内に残り、外袋だけがつまみ出させる。つまみ出した袋は最初にむいた皮の中に置く。こんな食べかたをしていた。

 なぜ、こんな食べかたをするのか。袋のまま口に放り込んでまるごと食べればいいじゃないか、と思うのだがそんな食べかたはしなかった。

 おそらくは、堅い(?)袋を食べるのは下品な行為だと思ったのだろう。だから、袋は食べずに吐き出す。、一度口に入れたものを出すほうが下品なような気がするのだが。しかも、出てくる袋は歯でしごかれグチュグチュになっている。そんなものを口から出して他人の目にさらすなんて。どっちが下品なのだろうか。おおいに疑問あり。

 でも、広まったものは簡単には廃れない。そして、いまもなお、踏襲しているひとがいる。多くは八十歳以上の女性だ。長生きする女性が多い時代、同窓会なんかで、皆が皆、そろって、みかんを食べる光景を思い浮かべると、思わずぞっとしてしまう。