蚊帳

 いささか時期をはずしてしまったが、夏の必需品のひとつに蚊帳があった。昭和の室内には蚊がたくさんいた。なので夜になったら蚊帳を吊り、その中に入って蚊を逃れる。

 蚊帳に入ってしまうとテレビを見ることもできない。本も読めない。テレビや照明は蚊帳の外にあるのだから。なので夜更かしはあまりできなかった。

 また、大きな蚊帳の中に家族全員が入って寝るのは当たり前だった。

 時は経ち、アルミサッシの窓が普及し、網戸でかなりの蚊を防ぐことが出来るようになった。個室が発達し、家族は別々に寝るようになった。洋室が増えた。ベッドに蚊帳はそぐわない。蚊帳を吊るための長押(なげし)のある和室も減っているのではなかろうか。

 というわけですっかり見かけなくなってしまった。独特なにおいとともに、思い出の世界へと旅立ってしまったようだ。戻ってくる気はないだろう。

 いっぽうで熱帯地方では蚊が媒介する伝染病がまだまだ残っているようだ。もし、使われなくなった蚊帳があるなら、そちらで役には立たないだろうか。