幻燈

 まだテレビが普及していなかったころの家庭にも、映像的な娯楽はありました。映像と行っても動画ではなく静止画ですが。それが、幻燈です。

 スライドともいいますが、私はスライドと幻燈を区別しています。まったく私的な区別であって、世間では通用しませんが。

 どちらも、まず光源(白熱灯)、画像のある写真のフィルム、レンズが順に並んでいます。フィルムの裏から光を当て、それをレンズで拡大して、スクリーン(シーツやら漆喰壁)に映し出す仕組みです。

 スライドと幻燈の私的区別ではこのフィルムが違います。一枚ずつ切り離して専用のコンテナに入れたのがスライドで、たくさんの映像が一本のロールフィルムに収まっているのが幻燈です。むろん、スライドのほうが高機能で高額になります。ということで家庭にあるのは幻燈ということになります。

 映像はいろいろ市販されていました。芸術的作品や名作などではなく、なんともくだらない話をあまりうまくない絵で表現したものが多かったような。スクリーンに投影しながら、大人が台本通り、あるいは適当にナレーションします。いってみれば、電気紙芝居でしょうか。

 なお、スライドのほうは、写真愛好家が自分で撮った自慢の写真を見せたり、講演会などの発表で使用されていました。話を幻燈に戻して、

 くだらないと言ってしまえばそれまでなのですが、暗くした室内で上演するのでそれなりに特殊な気持ちになってしまいます。一家全員がだまってナレーションに耳を澄ませています。当時でも非日常的な光景です。

 当時は、部屋の電灯を消せば、室内が真っ暗になりました。そんななかで、幻燈の光だけがほのかにともり、スクリーンに絵が映っています。その絵が下手くそなほど、特殊な雰囲気が醸し出されるような気もします。怖い作品だと恐怖心が倍増します。

 それだけのことですが、幻燈はハレの日のような催事であり、おどろおどろしい気分にもなりました。