非常コック

 「非常コック」ってご存じでしょうか。そんなものがあったなあ、とふと思ったのですが、最近は見かけなくなったような気がします。

 本当に見かけなくなったのか、それとも注意力が散漫になって気がつかないだけなのか。さて、どちらでしょうか。

 昔は、意識せずともやたら目についたものです。電車の座席の下、ロングシートの真ん中辺りにありました。四角い口があいていて、その奥に鉄製の赤いレバーが見えています。ドアの付近にガラス窓があって、その中にもあったような気がします。これは、電車を緊急停止させるための装置です。レバーを回せば電車が止まる仕組みになっていたようです。

 これをレバーといわずコックというのはなぜでしょう? 当時はまったく疑問に思いませんでしたが。

 こんなにわかりやすいところに、そして、だれでも簡単に触れるところに、こんな大事な仕組みがあってもよいのでしょうか。いや、緊急時なのだから、わかりやすいところにあって、操作しやすいものでなければならないのも理の当然です。

 でも、いたずらされることはなかったのでしょうか。とりわけ、酔っぱらいが触りたくなるようなものでもあるのですが。

 まあ、わたしの知る限り、いたずらや誤動作で電車が止まったことは無かったように思います。それなりにモラルは保たれていたのかも。というより、車掌さんでもこれを操作したひとはあまりいないのかもしれません。ほんとうに動作したかどうか、むしろ心配になったりもします。

 ところで最近の電車ではどうなっているのでしょう。緊急時に乗客が電車を止めることはできるのでしょうか。緊急通報ボタンはありますが、あれは連絡するだけで止めることはできないような気がします。

 へんなことが気になってきました。