ジュースの素

 瓶入り、紙パック、ペットボトル、缶。いまでは、色々な形で手軽にジュースが売られているが、昔はそうではなかった。瓶入りの濃縮ジュース(コンクジュース)があった程度ではなかっただろうか。むしろ、ミキサーを置いて生ジュースを売る店のほうが多かったかも知れない。これはこれで良いのだが……。

 そのころ、突然現れ、一世を風靡し、そしていつの間にか消えてしまったのが「渡辺ジュースの素」。お湯や水を入れて溶かす粉末ジュースである。溶かさずに指先につけて舐めることもよくやった。

 ところでこの粉末ジュースとは、一体何者であろうか。思うに果汁は一滴も使われていないではなかろうか。人工甘味料に人工着色料、そしてクエン酸などで人工的な味付けがなされていたのではなかろうか。

 これが、一気に普及させたのがテレビのコマーシャル。テレビCM成功第一弾かも知れない。

 爆発的に売れた。本物のジュースを知らない人間にとっては、うまいもののように感じた。本物を多少知っていても、日常的は飲むことのできないひとたちにとっても、それなりにうまいものであったのではなかろうか。あるいは、単に甘さが貴重だったのかもしれないが。

 時代と共に消えてしまったのは仕方がないが、作っていた会社、渡辺はその後どうなったのだろう? オート三輪くろがねやコーリン鉛筆、ふるやのキャラメルなどと同じように、ちょっと気になる。