歯磨き粉

 いまどき、「歯磨き粉」という言葉を使うひとはおそらくいないだろう。なぜなら、歯磨き剤はペースト状になりチューブに入っていて、決して粉ではないから。それは正しい。

 かつては、歯磨き粉という言葉は普通に使われていた。わたしが使ったのは最初からチューブに入ったペースト状のものだったし、当時はそれが既に主力となっていたのだが、呼び名は「歯磨き粉」であった。

 余談だが、当時はまだ、洗剤らしきものが不在で何もかも石鹸の時代であった。そこで、不測の汚れを落とすのに登場するのが、ベンジンと歯磨き粉であった。歯磨き粉をちょっと付けて、擦り落とせば汚れが落ちる、などという豆知識がいたるところで披露されていた。効果のほどはよくわからないが。それはさておき、

 当時はまだ、ペーストに押され気味とはいえ、粉もまた根強く生き残っていた。その後、煙草のヤニを取るといううたい文句の「ザクト・ライオン」という歯磨き粉が新発売され、それなりに人気があった。どことなく、クレンザーのようなざらつきがあり、ヤニを強力に削り落とすようなイメージが備わっていた。軟弱なペーストでは歯が立たないヤニを、クレンザーのような粉が削り落とす、といった感覚であろう。

 で、いまは、歯磨き粉はほとんどなくなってしまった。なので、「歯磨き粉」という言葉も消えてしまった。が、そこでちょいと新たなる疑問が発生。

 いま、ペースト状の歯磨き剤をなんと呼んでいるのだろうか?

 歯磨きチューブというのはチューブのことであって、歯磨き剤ではないだろう。チューブ入り歯磨き(剤)というのは、正確かもしれないが長ったらしい。一般的な呼び名がありそうでないのかも知れない。