猥歌

 カラオケがすっかり定着してしまったが、かつての宴席はアカペラ(というと聞こえが良いが要するに無伴奏)、手拍子の世界だった。カラオケで唄うのはマイクを持ったひと(だけ)であるが、アカペラ、手拍子の世界では大勢が一緒に唄うことも珍しくはなかった。

 唄うのは、演歌が多かったようだが、民謡を唄うひともいた。アカペラ、手拍子の世界ではそうなってしまうのだろう。当時の青春歌謡などというものも、アカペラ、手拍子で唄えるものが多かった。

 そして、アカペラ、手拍子の世界でのもうひとつ羽振りをきかせていたのが猥歌である。春歌とも呼ばれる。文字通り、性を扱った猥褻な歌詞である。「一つ出たほいの……」など、数え歌になったものも多かった。

 猥歌は、先輩から後輩へひとづてに伝承されていった。全国区の唄もあれば地域限定の唄、さらには所属組織オリジナルの猥歌も多々あった。

 カラオケの普及とともに人前で唄われる歌も変わってきた。天下流通のもの(要するにカそれなりの利用数を見込める唄)、だけとなってしまった。

 猥歌にどんな価値があるのかさっぱりわからないが、それでも、消えてしまうのは何となくさびしい。文化(といえるかどうかわからないが)がまたひとつ消えてしまったような気分である。