トイレの落書き

 トイレが綺麗になると落書きも減った。というよりほとんど目にしなくなった。ごくたまに見かけるのはスプレーペイントを使った大胆なもの。なので、個室ではなく広い壁に書かれている。おそらくは、落書きするためにトイレに入ったのだろう。

 昔の落書きは個室である。大概は油性ペン(マジックインク)や油性ボールペンを使って書かれている。書くつもりで入ったのではなく、用足しのついでに書いたのだろう。なので、たまたま鞄やポケットに入っていたもの使ったのだろう。書いているところを見られることもない。怪しまれることもない。

 わいせつな絵、わいせつなつぶやきがほとんど。程度の低いものがほとんど。でも中には、正面に「右を見よ」、右を見ると「左を見よ」左を見ると「後ろを見よ」、後ろを見ると「きょろきょろするな!」なんていう愉快なものもあった。「汝、カミに見放されしとき、自らのてでウンをつかめ」は定番。小説を書いている奴もいれば、哲学を論じる奴もいる。

 個室を利用するのは大概は緊急事態のときだ。真っ青になって飛び込み、なんとか間に合い体温が戻ってから眺める落書きはそれなりにほっとするものがあった。むろん、良いことではないが。