教壇

 昔の教室には教壇というものがあった。教室の前方が十センチほど高い段になっていた。教師はここに立って授業を行う。子どものころは、これがなんのためにあるのかわからなかった。というよりも、あるのが当たり前で理由など考えなかった、というのが本当のところ。

 教師は教壇の上、生徒は教壇の下。これは、身分関係をしっかりと示すためのものなのだろうか。あるいは、教師に十センチのハンディを与え、生徒を見下ろすようにするためのものなのだろうか。

 いずれにせよ、上下関係やら威圧感を与えるためのもののようだ。

 いまは、教壇がなくなり、教師も生徒も同じ床の上に立っているようだが、それは平等に近づくための措置なのだろうか? あるいは逆に、教壇などなくとも、上下関係やら威圧感を与えられるからなのだろうか?

 おっと待ったぁ。いま、思いついた。教壇があれば教師の背がそれだけ高くなり、黒板の上のほうに書くことができる。上のほうに書けばうしろの席の生徒も前の頭に遮られることなく見ることができる。教壇の意義はそんなものだったような気もしてきた。ん? だが待てよ。であれば、どうしてなくなってしまったのか。せっかくわかったと思ったのに、また、わからなくなってしまった。一歩前進二歩後退。