花電車

 まだ、都電が走っていた頃、なにか目出度いことがあると、造花で飾り立てた電車が走った。目出度さが増すと、提灯行列なんていうものもあったようだが、わたしが実際にc提灯行列を見たかどうかは定かではない。見たような気もするし、昔の話を聞いただけのような気もする。花電車のほうは見た記憶がある。

 あいにく、なにか目出度いことの「なにか」は覚えていないのだが。いや、忘れたのではなく、最初から知らなかったような気がする。それはともかく、

 電車を造花で飾るのはかなり大変なことである。花を作るのも大変、作った花を取りつけるのも大変。終わったあとで取り除くのも大変である。むろんそれによって収入が増えるわけではない。確か、花電車は見せるだけで客は乗せなかったはず。であれば、収入増加どころか、収入にはならない。

 なのに、どうしてそんなことをするのか。それは花電車を見た喜んでもらえるから。

 見たひとは喜んだのか。確かに喜んだ。きょうは花電車の日、と楽しみにもされていた。

 花電車の華やかさもあるが、それだけではなく、目出度いことを多くのひとが共有していたのだろう。オリンピックで地元の選手が金メダルを取ったような目出度さが、もっと頻繁にあったようだ。微笑ましいことなのか、全体主義の兆候なのか、微妙なところかもしれないが。