東京タワー

 公開開始を迎えて、スカイツリーが話題を集めている。が、それほど熱気を帯びているわけでもなく、むしろ静かなくらいである。

 東京タワーのときは熱狂的だった。ものすごいものができた、とさかんにあおり、また、その熱狂に乗っていた。ときまさに、高度成長の幕開けである。東京タワーはその象徴でもあった。

 清楚と言ってもよいスカイツリーの姿に比べて、東京ツリーはダイナミックで力強さをみなぎらせていた。赤白の色彩も強さを助長する。

 東京タワーの建設中には、転落その他でいくつかの尊い命が失われてしまった。黒部ダムなどの建設工事でもたくさんの命が失われている。多大な犠牲の上に完成したのが、東京タワーであり、黒部ダムである。それに比べれば、スカイツリーは静かに完成した。見た目だけでなく、建設も静かだった。

 これは、技術の進歩だけでなく、時代性の違いでもあるのだろう。

 ちなみに、東京タワーが完成した翌年に父が大阪転勤になった。そのためか、完成して、比較的日にちが経たないうちに東京タワーに上った。私としては珍しいことである。

 ところが展望台からの眺望など、上ったときの感想はまったくおぼえていない。うっすらと覚えているのは、お土産に買ったブリキ製のタワーの模型。これはその後もものがあったから。そして、さらにしっかりと覚えているのは、エレベータに並んでいたときに五百円札を拾ったこと。折角拾ったのに親に取り上げられてしまった。もっとも、親がそれをしかるべきところに届けた覚えはない。きっと、ネコババしたのだろう。

 さて、スカイツリーにはいつごろ行くのだろうか? あるいは外から眺めることはあっても上ったりはしないかも。